最後の忠臣蔵

『最後の忠臣蔵』

またみた。やっぱりいい。

静かだけどすごく強い赤穂浪士だった。セリフで語らない作りも素晴らしかったです。言葉のないところの演技がなんともグッと来て…みなまで言うな、委細承知!みたいな。たぶん役所広司さんの演技?がそうさせてるのかな。喋らない、声のない場面すごくいい。

そんな場面もよかったし、照明?も昔っぽくて良かった。画面は暗いんだけどろうそくの灯りだからあれはあれでしょうがなくて、やさしい絵になっていい。ろうそくの灯りで浮かぶ可音様の表情や室内がうっすら見えるあたりや布連れの音だったりで色んな事を察して想像して…今と比べると何もなくて不便、と思うけどわりかし豊かな心情で暮らしてたのかな。

■可音様がかわいい

「大石内蔵助の隠し子というこの身の始末をどうつけよう…孫左、うちは嫁ぐ。孫左の言う幸せというものに触れてみたい」

育ての親・瀬尾孫左衛門が持ってきた縁談話を拒否して日にちが経った頃、孫左にこれを言うのだけど、このシーンとてもきれい。儚そうなんだけど芯があって、凛とした美しさも出ていて、これが初時代劇だなんて。

それから、嫁ぐ日までの間に仕上げたくて、孫左の着物を縫うための反物を買って帰ってきたところがかわいい。

「うちはもう子供ではない、気遣いは無用」

と突っ張って、自室へ駆けていったけど、その仕草はまだ子供。草履を脱ぎ散らかしているんだもの笑

孫左も可音様は可愛くて仕方なかったんだろうなあ。だからやっぱり、孫左には生きて、内蔵助に代わって可音様を見守り続けるという使命もあったのに…ひょっとしたら可音様は、孫左がああするってわかっていたのだろうか。

そして、可音様はいつ、己が内蔵助の忘れ形見なんだということを知ったのかしら。ずっと知っていたのかな。幼いころから、そう教えられて育ったんだろうか。原作にも書いてないけど、きっとそうだったんだろう。

■御輿入れ〜ラスト

御輿入れ行列の途中で、元赤穂浪士の侍たちが次々に出てきて、大石様へのせめてもの恩返しに、お供させて欲しい、と頼むところは目頭が熱くなった。

「ありがたく思います。相見えることの叶わぬ父に代わり、厚く御礼申し上げます。」

道中の、この「しばし待たれよ~!」のところから涙腺は崩壊しており、嫁ぎ先に着き(田中邦衛さんから)口上を受けた後、振り返って孫左を見るあたりは、もう。

おしあわせに、と口の形で伝える孫左の優しい顔。十六年間、孫左は口を閉ざして亡き殿の命に従い、可音様の為だけに生きてきた。赤ん坊の頃からの思い出を振り返りつつ、孫左は終活をはじめる。十六年前、討ち入り前夜に瀬尾孫左衛門は、大石内蔵助から生きるよう命を受けていたのだから、生きて可音様を見守ってもよかった。それをしてもきっと誰も咎めはしなかったと思うし、この先、もし可音様にお子が生まれでもしたら、孫左に見せたい、と言い出すに決まってるし、だから、なにも、切腹シーンまでしなくても…。きれいな風景のままフェードアウトする作りでも良かったんじゃないかと思う。切腹してもいい、してもいいけど、切腹したんだなーってほんのり匂わせる程度でよかった。

だけども、武士だから、もうとにかく武士(孫左は足軽だったはずなんだが…)だから、主亡き後も生き長らえる事は考えられなかったんだろうな…。

■解せぬ箇所もある

可音様がいつ、己が内蔵助の娘であると知ったかは、行間を読んだことにして納得したが、もうひとつ解せない事がある。最後のお夕様だ。

お夕様は十六年のあいだ、孫左の為に、と、可音様に手習いを教えどこに出しても恥ずかしくない姫に、と手助けしてきたわけで、でも最後にフラれた。

可音様の御輿入れが済んだ日の夜、祝い膳をこしらえ、(切腹のために)帰宅した孫左を呼ぶ。そして、切腹するのを見通して、この世に留められるのは女…と、布団まで用意するのに、フラれた(笑)

この、孫左の為に、というのはとてもずるいし、恩着せがましい気がしてしまった。孫左はんの為に尽くしてきたのに報いてもらえないのか、と恨み言も出てたけど、見返りを期待して尽くしてたのかしら。尽くしたかったから尽くした、それだけじゃ駄目だったんだろうか。

見返り求めたらそこから面倒くさいことになるんだから。孫左が好きだった、だから手伝ってきた。それだけでいいじゃない。この子が嫁いだ暁には私がもらうっていう気持ちでやってたのかしら。夕霧太夫ほどの女性が、勝手に思いを押し付けてるわ〜…と思ったのだけど、恋とはそれほどまでに人を狂わすということか…

■田中邦衛さん

それから、田中邦衛さんが出ていた。この作品が最後の出演だそうで、現在はのんびりすごされているんだとか。嫁ぎ先に到着した際、奥野将監(赤穂旧家臣)として口上を述べるシーンだけだったが、とっても大事なシーンだった。

これはラストが生々しかったが、数ある忠臣蔵をテーマにした作品の中ではこれが一番好きだ。